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リベンジ、ルーフ!+内山裕太郎 2/3 〜あの伝説の2013を振り返る〜
なんと、今年もあのルーフオブアフリカに参戦することを発表してしまった、森耕輔・西森裕一。そして、この二人に加えて今年は内山裕太郎も参戦をするとのこと。SNS界隈では、西森はあの家にまた行くことになるのかーーなんて盛り上がりを見せていますが、せっかくなので昨年の記事を振り返ってみましょう!
前途多難…
森耕輔が、ルーフオブアフリカへの参戦を公表したのは、たしか2013年の年明けだったように思う。森は、元々トライアルの国際A級ライセンスを持っていて、JECやJNCCよりはG-NETやCGCに参戦するようになっていた。目指すものは、もちろんエクストリームエンデューロの世界だった。当然、エルズベルグロデオ参戦経験のある河津氏にも話を聞いており「エルズベルグロデオへの参戦を、考えていました。しかし、ある日、ルーフオブアフリカに出ないか、という話をもらうことができたんです。もちろんレースの存在は知っていたし、ぜひ走ってみたいとも思った」と森は決心を語る。
しかし、ご存じの方も多いと思うが、森は昨年8月4日に開催されたチーズナッツパーク夏祭り with FRPのゲストに呼ばれてエキシビジョンライディング中に、腕を骨折してしまう。それも、「開放複雑骨折」。ボルト9本を腕に仕込んだのが、レース3ヶ月前の話である。その時点で、多くのエンデューロファンが「ルーフオブアフリカは、ムリだろう」と話していた。
話はそれにとどまらない。その時の処置が悪く、森は感染症にかかってしまう。骨盤、皮膚を患部に移植するものの、その後も2度目の感染。洗浄手術をおこなうなど、レース前としては最悪の状況に。その劣悪さは、骨折したまま全日本モトクロスを走ったことのある鈴木健二さえもが引くほどであった。しかし、森は「行けると思ってました」と言う。
レース前、医師は「アフリカに行くだけなら行けるだろう」と言ったそうだ。2週間前ようやく復帰後初めてのバイクにまたがった森は、なんとかやれるのではないか、と判断した。
そんな森を心配してか、西森裕一もこのルーフオブアフリカへの参戦を表明した。もちろんチーム戦ではないので、現地で助け合えるわけではない(現地では、助け合って行け、まずはたどりつくことだ、と言われたそう。二人は上を目指しているのに、何を言ってるんだと思ったそうだが、後にその意味をイヤと言うほど知らされることになる)。
だが、もう一転。西森もが、レース1ヶ月前にカリフォルニアでケガをしてしまう。森は、療養のため見るからに細くなった左腕を抱えながら、西森もケガをおして、アフリカへと向かった。前途多難、あまりに無謀なアフリカへの挑戦がはじまったわけだ。
250ccでは走れない
現地では、両名共にYZ250Fをヤマハで借りることになった。森は、元々日本で使っているマシンも、アテナのボアアップキットで290ccにしていたり、リクルスを装備して左ハンドブレーキを装備していたりするが、これらをすべて持ち込むことにした。前後サス、フットペグ、YZのヘッドなど思うがままのマシン作りを現地でも試みる。西森は、フロントサスのエアブリーダーのみ(しかも、現地でZETA製のものが売っていたという)。
もちろん、アフリカならではの絶対に必要な装備は調えたものの、西森は「みんな290ccにしてたり、450での参戦なんです。なんでかな、と思ってたら標高が1400以上あるので、セッティングがあったところでパワーが出ないんです(酸素が薄いため)。なるほどなぁ、と」と言う。会場のレソト自体が、アフリカのスイスと呼ばれるほどの高地に属する。すなわち、ルーフ・オブ・アフリカなのである。なお、最も人気があったように見えたのは、KTMの300ccだとのことだ。世界のハードエンデューロの主流に違わず、やはり2ストが多い。
また、アフリカでは、岩盤があまりに多く、マシンの至る所を岩盤で削られることになる。削られるということは、相当な摩擦力がかかり、ヒルクライムなどで勢いを殺しかねないため、アフリカでは特殊な樹脂ガードが人気だ。つまり、岩盤を滑らせるという手法なのだそう。
ルーフオブアフリカ、恐るべしである。
日程は3日。スタート順を決める予選が1日目にあり、本戦を2日(2ステージ)かけておこなう。全走行距離は、300km程度だが、ルートのほとんどがガレ場であって、西森・森らが「トライアルのテクニックが無ければ、前に進めない」と言うほどのもの。主催者が掲げる「Mother of hard enduro」にふさわしい、強烈なレースだ。100kmガレ場が続く。そう思ってもらえれば、まあ間違いではない。アフリカだから、もちろん野生も違う。シマウマやバッファローは、鹿よりも多い。このワイルド&ウィルダネスこそが、ルーフだ。
1日目・予選、32度
予選の前に、エキシビジョンステージがもうけられており、街中のアスファルトをレースする。西森らは、このタイムを計測しないステージで5速全開でぶっとんでいく海外ライダーを見て、まず驚愕を覚える。「最後までわからなかったんですが、なぜ全開。パレード的なものなんですが…」と。
予選も思っていた以上にハード。56kmのほぼ全編にわたるガレは、しかし良好な天候(32度くらい)に守られてなんなくパスできた二人。会場には、ホットドッグが販売されていて、そのことを知った西森は「明日、ホットドッグを食べるためのお金を持ち歩こう」と心に決める。後に、大きなターニングポイントとなる、フラグである。
2日目・決勝、20度
朝3時起き、ということもあってその日の天候が読めない二人は、1日目の良好な天気の気分のままライディングウエアのみを手にして決勝に挑む。しかし、天候は雨。寒さが二人を襲った。
雨によるグリップの変化もあるだろう、ルートは過酷を極めた。西森・森レベルでも30分ほどはまってしまうようなセクションもあった。今話題になっている難所系タイヤは、路面がガレでタイヤを消耗しやすく、かつ距離がありすぎてもたないということで、使えていない(ジャービスはゴールデンタイヤだが、西森は「ジャービスのような丁寧な乗り方ができるライダーでないと、ソフト系のタイヤは履いていられないとおもう」と語っている)。とにかく、ハードなガレの上りが続く。いや「ステアがずっと続くっていうべき(森)」だろう。とにかく、例年に比べても過酷だったというのは、後から知ったことであった。
決勝の1日目が完走できなくとも、2日目を走ることができるルールであるため、森は16:00くらいにレースの続行をあきらめる。タイムコントロールで、スタッフがいる場所だった。レースのスタート順は西森のほうが先だったが、森はこれをパスしてきていたので、西森をここで待つことにした。気温はさらに下がっていき、濡れたジャージが体温を奪う。エマージェンシー用のアルミで出来た保温ジャケットを羽織るだけでは足らず、ゴミ袋に穴を開けて森は暖をとった。しかし、ケガの影響かもしれない、発熱してしまう。朦朧としながら、森は西森を待ち続ける。17:00には日が暮れ始め、森は心配になってあたりのスタッフに質問を投げかけた。帰ってくる返事は「まぁ、どこかで遭難してるんじゃないのかな」という…。彼等に寄れば「エンデューロライダーはタフだから、大丈夫だよ」とのことらしい。21:00には、もやもやしながらも森は探索をあきらめることにした。
10m後ろに何かがいる恐怖
西森ほどの腕をもってしても、ルーフオブアフリカのルートは困難を極めた。途中、完全に上れなくなるところが幾度もあったが、地元の子供達がよってきて「手伝ってあげる、金をくれ」と言う。「ホットドッグの金がなければ、たぶんいくつものぼれない坂があった」と西森。ホットドッグの金を少しずつ切り分けながら、なんとか前に進んでいく。これが、アフリカンエンデューロなのか…。
16:00にはいよいよまずいと思い、主催者に連絡をすることにした。携帯の電源を入れると、暗証番号でSIMカードがロックされていて、連絡がとれないという状況に。西森は、勝手わからぬ野生の土地で遭難しはじめたのだった。薄暗くなりはじめる周囲。人のいるところを探し、集落へと向かう。GPSがあるので、なんとかそのあたりのことがわかるのだが、なにせルーフオブアフリカは昼の競技なので、ヘッドライトもない。
そんな最悪の状況で、牧草地の盆地にバイクが完全に埋まってしまった。リカバリーできるような状況ではなかった。GPSの電池はほぼ無かった。本当にヤバイ時がくるまで、GPSは電源を切ることにした。ほとんど、あたりは真っ暗。本物のサバイバルがはじまったのだった。
それでも、なんとか集落にまではたどりつかねばならない。覚えている道のりを、なんとかたどる。「真っ暗で、山と空の境目くらいしか見えなかった。ものすごく怖かった」と西森は言う。「しかも、10m後ろくらいに何かがずっとついてきているのがわかるんです。人じゃない。人じゃないと思いたい。ライオンとか、そういうのでもない。とにかく、わからないんですが」と西森。森は「ハイエナか何かだったんじゃないですかね」とその時を思い出す。1時間ほど、その恐怖の暗闇を歩き続けた西森は、集落を発見する。もちろん、英語も通じないので、言葉にならない「あやしいものではない」アピールを大声でするものの、番犬が5匹くらい現れて西森を襲う。西森は、持っていたグミを番犬に投げて、難を逃れようとする。「頼むから、あっちにいってくれ…」
そうこうしているうちに、現地の住民が出てきてくれて、なんとかお世話になることができたのであった。
まだ終わっていない
レソトの民家は、やぐらの中にたき火があるだけのテントに近いものだった。明かりはたき火だけ。西森は、現地の作業服を借りることができ、毛布にくるまって一晩を過ごすことができた。
その民家の人々は、みな携帯を持っていたが(電気がきていないので、街で充電するらしい)、非常に狭い中で話せるだけのプランだったらしく、本部への連絡がとれなかった。西森は、隣の村の「外界までつながる携帯をもっている人」まで会いに行き、ホットドッグの残りのお金で携帯を使わせてもらってヘルプを呼んだ。わずかにGPSの電池もあったので、なんとか場所も伝えられ、ほどなくヘリが西森を救出にきた。
森は「もう一度、出たいですね。とにかく完走というやり残したことがある」と言う。西森は「2日目はさらにきついというのに、いけるのか…。わかりませんが、再チャレンジしたい」と言う。まだ、二人のルーフオブアフリカは終わっていないのだった。
本誌2014年3月号掲載
この記事の著者について
- 稲垣正倫(Enduro.J)
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