あまりにSUGO2デイズエンデューロの結果に面食らった編集部は、田中太一の成長のヒミツを探ろうとしました。幻になってしまいましたが、この号は表紙から田中太一を予定していました。特集、田中太一のヒミツ、全部掲載するのもまどろっこしいのでほんの一部だけ。ぜひバックナンバーを購入して、誌面でご覧下さい!

幻の表紙候補の1枚

幻の表紙候補の1枚

速さの秘密を探る

 SUGO2デイズで見せた、今までありえなかったスピードの成長度。鈴木健二とのテクニック・素ピードの距離を正確に把握し、「これならいける」というところまで高めて、実際に鈴木健二を倒して見せた。モトクロスでいうなら、成田亮をいきなりスポット参戦で倒したくらいの衝撃度だ。
 それが、なぜできたのか。その答えを取材班は探るために今回の特集を組んだ、といっても過言ではない。田中は言う。
「1ヶ月間、カート(・キャッセリ)のところにいって練習する、なんてことは誰もやっていないでしょう。エルズベルグだけじゃない、本当なら僕はSUGOの前にもカートのところに1ヶ月ほど行ってこようと思っていたほどです(カートの都合が合わず、見送りになった)。
 そこで、見て学んだものは、今までの常識とはかけ離れていたものでした」
 そのカートのライディングを象徴するモノが、●〜●ページのコーナリングだ。しかし、話を聞いていると実際には、あの教えは真でありまた逆でもある。
「R・ビロポートなんかを見ていると、やっぱり相当な勢いでつっこんでいっていますね。でも、あれはそもそもコーナリングスピードが速いからなんです。そのスピードでつっこんでいっても、転倒しないだけのテクニックが彼にはあるから。だから、速いだけです」と田中は言う。とあるJNCCのAAライダーが田中にコーナリングを教えてもらうときに、「太一君、全然俺は攻めてる気がしない。これで本当に速くなるの?」と言ったそうだ。でも、実際にコーナリングスピードを稼ぐ方向に考え方を変えると一気にタイムが縮まったそう。
 結局のところ、相当に日本で走れているライダーでもコーナリングスピードが不足していて、つっこみを学ぶ前にまずは「コーナリングスピードを確保すること」が基礎中の基礎。そこが大事ということらしい。
 田中は、フィジカルトレーニングをやっていない。正確には、ランニングなどはやっているそうだが、いわゆるエンデューロのためのフィジカルは作っていないとのことだ。「必要だとは思いますよ。もし、僕がエンデューロを仕事とするような生活が送れるようになったら、やると思います。でも、そのためにはそれだけに打ち込むだけの環境が必要なんです。そこまでやれば、僕はエルズベルグでも表彰台を狙っていけると思う」と。「体力はないです。そういう体作りをしていないですから。トライアルで作った体は、もろに瞬発力を養うためのもの。そういう体は完全に作れているけれどね」
 結局のところ、取材班は困惑することになる。なぜって、明確な答えがそこにはないからだ。

TAICHI37 のコピー

巨大ステアは当たり前だけど危険!

 とびきりウルトラC級わざというわけで、Ride is Lifeでもトライアルのプロモーションに使ったガケにアタックしてもらった。ほぼ直角、高さは見ての通りだ。日本では、G-IMPACTくらいしか最近ではお目にかかれない強烈なセクション。通常必要かといえば「必要ない」レベルのテクだ。
 田中に言わせると、いろいろと注意すべきことはあるし、本格的にこれを語り始めるととても2Pでは足りないので、かいつまんでポイントを話してもらった。「一番大事なのはイメージですね。上れる、というイメージをしっかりつくれない限りメイクは不可能です。不安なら、何度もタイヤを登り口に当てて、スピードや助走のイメージを高めていってください」と話す。実際、田中もこの場面では、6回くらいタイヤを斜面に当てて試しにいっている。
 とはいっても精神論ではのぼれないので基本的な所作を紹介しておこう。まず、こういう壁のようなステアは、斜面はまったく考えなくてOK。のぼりクチの角度で一気に上に飛び上がる、という流れになる。その時、もっとも注意すべきなのはフロントサスの反発だ。ほとんど壁にあたりに行っているようなものなので、どうしてもフロントサスはフルボトムしたあとに、おつりがくる。これを、全身でフロントにかぶさりながら御すわけだ。また、上に飛び上がったままでは当然マズイ。ガケ面では、リアブレーキを当ててリアタイヤをあげる必要がある(モトクロスの空中姿勢コントロールの要領だ)。この全てがタイミングがあって、はじめてメイクできるというわけだ。オススメはしないが、将来エルズベルグを走りたいというライダーには、チャレンジしてみてもらいたい。

ウルトラC級!! 巨大ステアの上り方

まずは助走を完璧に。遠いところから助走する必要はない。斜面から1mくらいのところでクラッチをあて急加速、と同時にフロントから荷重を抜く(ウイリーまdえいく必要はない)。必要な加速を手に入れるには、クラッチワークも要求される。飛び上がる瞬間、体で前に覆い被さってフロントの跳ね返りを防ぎ、飛び上がりきったらクラッチを切る&リアブレーキをがつんとかける。これでマシンのリアがあがってきて着地点と並行になる。リアタイヤをとめておくことは、着地後に安定していることやトラクションを確保できること、まくれ防止にもつながる

信じる心

 唯一ほかのライダーと明らかに違うところがあるとすれば、その実現力とバイタリティなのかもしれない。ROOTS ENTERTAINMENTを立ち上げる当初は、本当に大変だったと田中は言う。「自分たちで、ショーのトラックも用意して。溶接も地元のおっちゃんにやってもらったりしたんですが、すべてがうまくいくはずもなく。1回目なんて、当日に嵐がきたことで延期になって、それがなければ用意が間に合わないってくらい予想外のことがおきたり、大変だった」
 田中はエンターテイナーである。問題作であり傑作であると言われている自信のプロモーションDVD180制作、昔から何度も企画してはショーのトライアルを地元でもおこなってきた。やりとげる、ということを身につけているライダーである。Ride is Lifeにしてもそうだ。そもそも、チーム名だってROOTS ENTERTAINMENTだ。「ギャップがおもしろいんですよ。絶対できないことを、やってみせる。だから、ファンはわいてくれる」
 だから、子供からの信頼も厚い。地元、奈良・大阪では田中あり、といった具合だ。モトクロスだって速い。キッズのファンは着々と数を増す。それはそう、練習にくるたびに何でも教えてくれる、キッズにとってのスーパースターなのだ。
 浅はかな言葉かもしれないけれど、田中が速い理由は、単純にその実現力にあるんじゃないか、と本誌は結論づけたい。「俺ならできる」と、信じる力なのだと。

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